読書部|3冊目「無人島のふたり」

また4か月ぶりの読書感想文です。
もはや言い訳はしません。ただの遅読家です(‘_’)

3冊目は「無人島のふたりー120日以上生きなくちゃ日記ー」(新潮社、2022年10月20日発行)。
作者は山本文緒氏(1962年、神奈川県生まれ)。
OLから作家に転身し、2001年には「プラナリア」で直木賞を受賞されました。
他にも数々の賞を受賞、たくさんの著書を残し、2021年、膵臓がんのため、58歳で亡くなっています。

Mujinto no futari
著者:山本文緒『無人島のふたり
―120日以上生きなくちゃ日記―』(新潮社刊)

「無人島のふたり」は、山本氏がステージ4bの膵臓がんと突然に診断され、抗がん剤治療を経て、緩和ケアへ進むと決めたところから始まる日記です。
書き出し2日目の最後に「うまく死ねますように。」と書かれていて、胸がズキンと鳴りました。

山本氏は、どんどん悪化する病状と、人生の終わりに片づけたいこと、そして夫と過ごす大切な日常を、淡々と時にユーモラスに綴っていきます。
自分だったら心の中も生活も大荒れで、とてもそれらを言語化できないと思いますが、さすがはプロの作家の底力!
担当編集者の見舞いを受けてほどなく、彼女は1か月以上書き溜めた日記をパソコンで書き直し始めます。
作家も編集者も、この日記の活字化をはっきりと視野に入れたのです。
音声入力を使ったり、夫の助太刀を得ながら、亡くなる10日ほど前まで書かれた日記。
その最後の言葉を読んだとき、彼女がペンを握ったまま、静かに机に伏していて、眠っているのか亡くなっているのか分からない、そんな光景が目に浮かびました。

人生100年時代と言われるようになりましたが、がん、交通事故、脳や心臓の疾患など、老衰以外の様々な要因でも人は死に至り、自分で選べるものではありません。
一瞬のことであれば仕方ありませんが、お別れの時間が多少なりともある場合、自分はどのように過ごすでしょうか?
そして、もしも老衰で亡くなるという幸運(かどうかはまだ不明)に恵まれるとしても、晩年はそんなに自由に動けない確率が大きいのではないでしょうか。
今から終活をどんどん進めなければ、と改めて決心した次第です。

ところで、山本氏は、「突然20フィート越えの大波に襲われ、ふたりで無人島に流されてしまったような、世の中の流れから離れてしまったような我々」と、余命宣告を受けたご自分たち夫婦のことを形容していらっしゃいます。
ちょうどコロナ禍でもあり、いきなり日常と切り離された衝撃とともに、ご夫婦の絆の強さが伝わってきます。
だって、無人島に一緒に流れつくには、二人がよほどしっかり結びついている必要があるでしょうから。

また、「これから少しずつ無人島に親しい人を招待してお別れの挨拶を(心の中で)しようと思っている。」という記述があって、実際、いろいろな方々に会っていきます。
苦しい中で、弱った姿を見せてでも会う、その勇気と愛に感動しました。
個人的な見解ですが、旅立ちの前に一言でも言葉を交わせたら、もちろん悲しいし辛いですけれど、残された人々はちょっとだけ心が軽くなるように思います。

さらに、彼女の愛読者へも同様に、この「無人島のふたり」を書くことでお別れをしてくださったこと、ほんとうにほんとうに感謝です。
心からお悔やみ申し上げます。

この本のごきげんポイント

  • いつか来る人生の終末期をリアルに感じさせてもらいました
  • 終活に向けたモチベーションが高まりました。
  • 自分も、最後に時間があれば親しい方々にお別れを言いたい、と思いました。

悲しいけれど充実した読書体験でした
さあ次の本を求めて
本屋さんへ

読書部

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